御所ヶ谷ホームクリニック

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認知症の危険因子

認知症の危険因子

認知症の予防にも関連する話題として、認知症発症の危険因子について検討してみましょう。

認知症有病率

ところで、みなさんは、認知症の一番の危険因子は何だと思いますか?
正解は、「加齢」です。上の右のグラフをご覧下さい。
年齢を重ねると認知症有病率が顕著に増加します。95歳以上になると全体の約8割が認知症を発症していることになります。

このように、認知症は、年齢を重ねると誰でも発症する可能性のある病気です。加齢のほかにも、性別(女性)、遺伝子(APOE遺伝子多型)などの危険因子がありますが、これらは予防的介入が困難です。
一方で、生活習慣病が認知症発症の危険因子となることが判明して、認知症予防のための介入が求められています。ここでは、生活習慣病と認知症との関連について検討してみます。

1. 高血圧と認知症

高血圧は、細動脈硬化症の重要なリスク要因であり、脳動脈が影響を受けると、脳の深部の大脳基底核や視床に小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)が多発します。慢性脳循環不全で神経活動が不活発になり、脳血管性認知症のリスクが高まります。

脳血管性認知症のグラフ

上の右のグラフは、九州大学久山町研究で発表されたデータから改訂引用しました (Ninomiya et al. Hypertension 2011; 58: 22-28)。脳血管性認知症発症の相対危険をみたものです。

高血圧の程度が強まるごとに、直線的に脳血管性認知症発症のリスクが高まることが分かります。ここで重要なことは、老年期になっての血圧コントロールよりもむしろ、中年期の高血圧が認知症のリスクになるということです。まだまだ若いうちから、生活習慣病をコントロールしておくことが、認知症予防につながると言えます。

アルツハイマー型認知症のグラフ

上の左のグラフも、同じ研究論文からの引用です。
認知症の中でも一番頻度が高いアルツハイマー型認知症に関しては、高血圧はほとんどリスクの増加につながらないようです。

2. 糖尿病と認知症

糖尿病は、血管内皮細胞の働きを障害するため、毛細血管をはじめとする細小血管障害や、大血管のアテローム硬化(粥状硬化)をきたします。糖尿病が脳血管性認知症のリスク要因になることはこれまでも知られていました。

一方で、久山町研究の解析により、アルツハイマー型認知症の重要な病理変化の一つである「老人斑」の出現と、糖尿病のインスリン抵抗性が関連していることが確認されました。

老人斑出現の相対危険のグラフ

上の右のグラフは、九州大学久山町研究で発表されたデータから改訂引用しました (Matsuzaki et al. Neurology 2010; 75: 764-770)。老人斑出現の相対危険をみたものです。

HOMA-IRとは、インスリン抵抗性の指標であり、1が正常、2を超えるとインスリン抵抗性ありと判断されます。棒グラフが2本あるのは、2通りの調整の仕方で解析したものですが、いずれにしてもインスリン抵抗性が増すと老人斑形成のリスクが高まることが分かります。
インスリン抵抗性は、糖負荷2時間後血糖を高めます。グラフを見ると、APOE遺伝子多型の影響が極めて強いことが分かりますが、いずれにしても食後血糖が高いと老人斑形成のリスクが1.5倍以上高まります。

インスリン抵抗性が上昇すると、インスリン分解酵素活性が低下して、老人斑を構成するアミロイドβ蛋白の分解が妨げられます。また、インスリン抵抗性によりインスリンシグナルが破綻すると、グリコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK-3)が異常に活性化されて、タウ蛋白の異常リン酸化が起こり、神経原線維変化の形成につながる可能性が示されています。

脳血管性認知症と糖負荷後血糖の相関を見たグラフ

上の右のグラフは、九州大学久山町研究で発表された別のデータから改訂引用しました (Ohara et al. Neurology 2011; 77: 1126-1134)。脳血管性認知症と糖負荷後血糖の相関を見たものです。耐糖能異常により、確かに脳血管性認知症のリスクが高まります。

アルツハイマー型認知症のグラフ

上の左のグラフも、同じ研究論文からの引用です。インスリン抵抗性が高まり、糖負荷後血糖が上昇すると、アルツハイマー型認知症の発症リスクも直線的に上昇することが証明されました。

インスリン抵抗性は、生活習慣病の中心的な病態であるというだけでなく、年齢を重ねるごとに脳の変性にもつながる深刻な事態なのです。この論文の中で、世界保健機構(WHO)の診断基準で「糖尿病」と診断されたグループは、血糖コントロールが正常なグループに比べて、アルツハイマー型認知症の発症リスクが2.05倍に高まることが示されています。

3. 高脂血症と認知症

高脂血症は、粥状動脈硬化の重要なリスク要因であり、比較的太い脳動脈が影響を受け、広範囲な脳梗塞をきたす脳血栓症のリスクを高めます。また、大動脈や頸動脈にできたアテローム血栓がはがれて血流に乗って、脳血管に詰まる病態を脳塞栓症と言い、急性の脳卒中の原因となります。したがって、高脂血症もまた、脳血管性認知症のリスク要因になることが知られています。

さらに、コレステロール代謝異常は、変性疾患であるアルツハイマー型認知症の病理変化の一つである「老人斑」の出現と関連していることが確認されました。

コレステロール代謝異常とアルツハイマー型認知症の相対危険のグラフ

上の右のグラフは、九州大学久山町研究で発表されたデータから改訂引用しました (Matsuzaki et al. Neurology 2011; 77: 1068–1075)。老人斑出現の相対危険をみたものです。

棒グラフが3本あるのは、3通りの調整の仕方で解析したものを表していますが、いずれにしても総コレステロールや悪玉(LDL)コレステロールが一定の値を超えると、老人斑形成のリスクが高まることが分かります。一定の値というのは、ちょうど健康診断で異常値として指摘される数値と同等です。

このデータセットにおいては、アルツハイマー型認知症の発症リスクとコレステロール代謝との直接の関連を見出すことはまだできていません。ただ、認知症につながる可能性がある「老人斑」のシミが沈着するのを防ぐためにも、高脂血症のコントロールを十分に行っておく意義があるでしょう。

4. 喫煙と認知症

喫煙は、生活習慣病の大きなリスクの一つです。ここまで、生活習慣病が認知症の発症につながる可能性をみてきましたが、喫煙そのものも認知症発症の危険因子であることがわかっています。喫煙による酸化ストレスは、動脈硬化症と関連して血管性病変につながりますし、神経変性の進行にも悪影響を及ぼします。喫煙にともなう一酸化炭素ヘモグロビン血症も認知機能低下のリスク要因です。

喫煙による脳血管性認知症のグラフ

上の右のグラフは、九州大学久山町研究で2015年に発表されたデータです (Ohara et al. J Am Geriatr Soc 2015; 63: 2332–2339) 。中年期から老年期を通じて喫煙していた場合、脳血管性認知症を非喫煙者より2.88倍発症しやすいという結果です。

喫煙によるアルツハイマー型認知症のグラフ

喫煙は、アルツハイマー型認知症のリスクも1.98倍高めることが示されました。データは、高血圧の有無や耐糖能異常、総コレステロール値で補正されていますので、生活習慣病の影響を除外して、喫煙そのものの影響を示しています。ここで重要なことは、脳血管性認知症もアルツハイマー型認知症も、中年期に喫煙していてもその後禁煙するとリスクを低減できるということです。

健康寿命を長く保つためには、禁煙を推進することが疫学的にも重要であることが端的に示された研究報告です。

5. 生活習慣病と認知症
(まとめ)

高血圧、糖尿病、高脂血症は、食生活の変化や運動不足にともない、日本においても増加傾向にあり、癌や心筋梗塞のリスクとなります。心筋梗塞は心臓の血管の病気ですが、脳の動脈硬化が起これば、脳梗塞をはじめ脳血管性認知症の発症リスクが高まります。

糖尿病の有病率を表すグラフ

特に、糖尿病の有病率は近年非常に高まっています。上の右の図で、IFGは空腹時血糖異常、IGTは耐糖能異常といって、境界型糖尿病の状態です。糖尿病有病率の増加は、近年のアルツハイマー型認知症の増加とも関連がありそうです。

ここで大事なのは、高齢になってからの生活習慣病よりもむしろ、中年期からのコントロールをおろそかにしていた場合に認知症発症のリスクが大きいということです。認知症の予防は、早めに介入できるに越したことはありません。
当院では、内科医ともの忘れ専門の医師との2人体制で診療を行っていますが、高齢者の合併症に連携して対応できるというだけでなく、中年期からの認知症予防にもしっかり対応できるという強みがあります。生活習慣病が心配な方は、早めにかかりつけ医を定めておくことをお勧めします。